<八高つれづれ草子> 第4回
上X国語翁
【 八高と 芥川賞・直木賞 】
今年の芥川賞・直木賞(下半期)はいずれも「該当作なし」という珍しいことになりましたが、今回は八高とこの文学賞のお話を。
芥川賞・直木賞は、文藝春秋社を創業し成功をおさめた菊池寛が、二人の亡友を顕彰して昭和10年に創設。以来90年、今回で173回を迎えます。
この文学賞に八高からの受賞者がいたかどうか、ご存知ですか。
多岐川 恭(たきがわ きょう1920年- 1994年)氏が、直木賞を昭和32年に受賞されています。
多岐川 恭・・・本名、松尾舜吉、八幡中学の14期生です。

卒業後の経歴を抜粋すると、旧制第七高等学校から東京帝国大学経済学部卒業。戦後、銀行勤務の後、毎日新聞西部本社に再就職などを経て、30代半ばから小説家として活躍され、平成元年には紫綬褒章を受章されています。
直木賞受賞作は『落ちる』(第一作品集「落ちる」「ある脅迫」「笑う男」の3短編による受賞)。僕は今回、八幡図書館で借りて(2018年ちくま文庫)読みました。どの作品も面白かったですよ。推理サスペンス系の快作です。「笑う男」には八幡市もちょっと出てきます。

この昭和32年、氏は「濡れた心」という作品で江戸川乱歩賞も受賞されてます。39歳売れっ子作家ですね。そしてその翌年には、八高創立39年記念に来校され「わが中学校時代の思い出」と題して記念講演をされています。
一方、芥川賞は、八高からは未だありません。
その芥川賞に限って地元北九州をたどると、旧制小倉中学卒業の火野葦平、板櫃(いたびつ)尋常高等小学校の松本清張、花尾中学校の村田喜代子、東筑高校の平野啓一郎、などと思われます。
長いこと八高に勤務する間には、実は作家志望、という生徒もいたのでしょう。僕が直接知っているのは二人です。一人は社会に出たのちに何度も文学賞に応募し、いい所まで選考に残ったことを報告してくれました。もう一人は八高現役のときに、けっこうな中編小説を数本書いて、「批評を願います」と言って僕を追い詰めてくれました。
誠鏡会の同窓もあと5年もすれば4万人を越えることになります。多士済々。
野球部OBの夢の甲子園も決まったことです。八高から芥川賞・直木賞とか、八高からノーベル賞とか、ビッグなニュースもそのうちあるのでは。
・・・みなさま、猛暑お見舞い申し上げます。
※多岐川氏の写真は北九州市立文学館HPより